What is DEQX PDC-2.6P?

はじめに

PDC-2.6PはDEQX社のディジタルオーディオプロセッサーで、まさに次世代といえる最新の技術が投入されています。中でも

「DEQX Calibrated TM」と呼ばれる補正技術は、スピーカーシステムの特性を理想的なものに補正する画期的な技術です。このDEQX Calibrated TMという技術は、従来のパラメトリックEQのように振幅の周波数特性のみを平坦化するものではありません。位相の周波数特性、群遅延といった全ての特性を理想的な状態に近づけ、結果として、スピーカーシステムを理想のトランスデューサーに近づけてくれます。

さらに、PDC-2.6Pは2Wayもしくは3Wayのクロスオーバーネットワークとしての機能や、室内特性補正機能、ディジタルプリアンプとしての機能を備えており、まさに最強のプロセッサーと呼べるものです。

PDC-2.6Pの各機能

PDC-2.6Pの多彩な機能をわかりやすく説明するために、PDC-2.6Pの機能ブロック図を図1に示し、その主な機能をご紹介します。ただし、PDC-2.6Pは複数のDSP(ディジタル信号処理装置)を用いてこれらの機能をソフトウェアー的に実現しており、実際のハードウェアーの構造とは対応していません。

図1 3Wayモード時のPDC-2.6Pの機能ブロック図(片チャンネル分)

ディジタル・クロスオーバー・ネットワーク

PDC-2.6Pは左右のチャンネルそれぞれに3個ずつ、6個のクロスオーバーネットワークを搭載しています。このクロスオーバーネットワークは、FIR型と呼ばれるディジタルフィルターで実現されています。FIR型のフィルターは、周波数に対しても遅延量が一定であるため、通常のアナログフィルターのような位相歪が発生しないという特長を持っています。また、PDC-2.6Pのクロスオーバーネットワークでは、48dB/Octから最大で300dB/Octという遮断特性を選択することが可能です。

PDC-2.6Pが誇るこの急峻な遮断特性は、スピーカーシステムのデザインの幅を大きく広げます。例えば、高域での共振が強い金属系の振動版を使用したユニットでも、共振を起こすぎりぎりまでの帯域を利用することが可能となります。また、6dB/Octや12dB/Octといった緩やかなクロスオーバーネットワークを用いると、ユニット間の干渉によって、クロスオーバー周波数付近でディップが発生します。PDC-2.6Pの急峻な遮断特性を利用すれば、ユニット間の干渉がほとんどなくなるためディップの発生がおさえられます。

図2 DEQX PDC-2.6Pのクロスオーバーネットワークの特性


スピーカー特性補正

PDC-2.6Pの他に類のない機能として、スピーカー特性を補正する機能があります。グラフィックイコライザーなど従来製品に見られる、振幅特性だけに着目した見かけ上の補正を行うものではなく、位相、群遅延など正確な意味でのスピーカーの伝達特性を補正するものです。この補正の結果、最近話題になっているスピーカーのインパルス応答も理想の形に近づくことになります。たとえば、ツイーターとウーファーの位置関係を物理的に調節する必要はなくなります。PDC-2.6Pが自動的に最適な遅延量を計算し、ユニット間の時間差を補正してくれるからです。

測定の様子を図3に示しました。PDC-2.6Pには専用のマイクロフォンが付属しており、個々のマイクロフォンの特性があらかじめ校正データとして組み込まれています。このマイクロフォンをPDC-2.6Pに接続し、PDC-2.6Pから出力されるテスト信号を各スピーカーユニットに供給します。さらに、専用のソフトウェアーが動作するPCとPDC-2.6PをUSBで接続します。PC上で動作するソフトウェアーによって、クロスオーバーネットワークの仕様やスピーカー特性補正の設定が簡単に行えるようになっています。もちろん、設定が終了すればマイクロフォンもPCも必要ありません。


図3 スピーカーユニットの特性測定


スピーカーユニットの補正用の逆フィルターは、クロスオーバーネットワーク用のFIR型フィルターに組み込まれて処理されます。そのため、補正を行った場合のクロスオーバーネットワーク用フィルターの特性は図4のようになります。この例のフィルターは、2.7KHz付近でクロスさせるための2Wayスピーカーのクロスオーバーネットワーク用フィルターと、40Hzから24KHzの間の特性を補正するための逆フィルターが一つになったものです。また、このフィルターを使用した場合のスピーカーシステム全体の振幅対周波数特性が図5で、群遅延の周波数特性が図6となります。

図4 クロスオーバーネットワークと補正用逆フィルターの特性

図5 処理後の振幅-周波数特性

図6 処理後の群遅延-周波数特性

室内特性補正

スピーカーの近距離での特性を補正する機能に加え、部屋の定在波の影響を補正する機能がPDC-2.6Pに搭載されています。この機能は、部屋の影響によって低周波の領域で発生するピークやディップを自動的に検出し、そのピークやディップを軽減するようにパラメトリックイコライザーを自動的に設定するというものです。計測と設定は図3と同じ構成で行いますが、マイクロフォンの位置がリスニングポイントに移動します。

図7は部屋の特性の測定結果と、自動的に生成されたフィルターの特性の例を示しています。この例では、周波数範囲の上限を400Hzまでとし、補正レベルの上限を±12dB、補正ポイントの数の上限を6個として、自動的に補正フィルターを生成しています。また、自動補正の結果は、マウスなどで簡単に編集することが可能です。

図7 部屋の特性の例と自動で生成された補正フィルターの特性

プリアンプ機能

PDC-2.6Pには、従来のアナログ式プリアンプに含まれていた機能がいくつか搭載されており、ディジタルプリアンプとして利用することが可能です。

PDC-2.6Pにはいわゆるトーンコントロール機能が搭載されています。低域、中域、高域の調整が可能で、個別に周波数とレベルの設定が可能です。この設定を最大で100個まで登録することができます。また、不要な超低域や超高域をカットするフィルターも搭載されています。

PDC-2.6Pは標準でアンバランスのアナログ出力を備えています。さらに、オプションでバランスのアナログ出力やディジタルの出力カードを搭載することができます。アナログ、ディジタルともに出力のレベルをコントロールできるようになっており、アナログ出力に関してはアナログに変換された後にレベルがコントロールされる仕組みになっています。

最後に

DEQX社のPDC-2.6Pは多彩な機能をもつだけでなく、それぞれの機能が従来製品を遥かに凌ぐ高性能なディジタルプロセッサーです。特に、スピーカーユニットごとの特性補正とクロスオーバーフィルターを組み合わせた機能は革新的なものであり、その能力ははかり知れないものがあります。

良い音を探求するための方法は数多くありますが、オーディオシステムの中で最も大きな影響力を持ち、最もシンプルな構造をもつスピーカーシステムを積極的に改善していく考え方は、オーディオの本来の方向性ではないでしょうか。事実、PDC-2.6Pによってコントロールされたスピーカーは、まるで別物のように、正確な定位で歪感のない新鮮な音を奏でてくれます。是非、このDEQX PDC-2.6Pの革新的な技術に触れてみてはいかがでしょうか。