Q4 DEQXのルーム補正機能とはどのようなものですか。 A4 DEQXは第一段階でスピーカーシステムを理想的な特性に仕上げます。次にこのスピーカーから出た音で発生する室内の定在波を測定し、これを低減するように補正する二段階方式を採っています。 1.DEQXで補正すると、全てのスピーカーが同じ音になるというわけではありません。DEQXはスピーカーシステムの周波数特性、位相特性、群遅延特性、ステップレスポンスなど、固有のクセや音質に大きな影響を及ぼす基本的な特性を理想的な状態に補正しますが、個々のユニットに固有の物理的な性質である振動板の素材、初動感度、劣化や歪み、室内音響特性との兼ね合いで音質に大きな影響を及ぼす指向特性、周波数特性には現れない共振などによる付帯音、そしてユニットの限界性能などは補正できません。 つまり、10センチのフルレンジスピーカーと38センチの3WayスピーカーシステムをDEQXで補正すると似たような音にはなりますが、本質的なスピーカーとしての能力差は歴然と音に現れます。 2.DEQXは魔法の箱ではありません。使用するスピーカーユニットやシステムの本質的な個性はそのまま音に出てきます。ドーム型ユニットの正確な音、ホーン型ユニットの自由奔放な音、コーン型の平均値型の音、そして指向特性の違いなどはそのまま表現されます。 3.好ましくない個性(クセ、弱点)を補正し、良い個性は残すことで、スピーカーシステムの魅力を最大限に引き出すのがDEQXの最初の役目です。 4.スピーカーシステムを設置して音を楽しむ空間、つまりリスニングルームの音響特性は最終的なサウンドの全体像を決定する極めて大切な要素です。 ・細部のディテールはやや判りにくいが、響きが豊かで音に包まれるような空間。 ・プログラムソースに含まれる響きが最大限に聴き取れ、細部の情報量も豊かな精緻な空間。 ・壁や床の影響で高域の減衰がやや大きいが、クラシックなどはとても聴きやすい空間。 ・壁や床の適度な反射によって高域の減衰が少なく、メリハリの効いた爽やかな音響空間。 等々。 こうした個々のお部屋の音響特性がそのオーナー(リスナー)の望む方向にあるのかどうかは大きな問題ですが、不幸にして好みと異なる場合は各種の音響パネルなどを積極的に利用して改善されることをお薦めします。 残念ながらDEQXはお部屋の残響特性や伝達特性まで補正する機能はありません。それは実際に壁面の構造や材質による改善の方が自然であり、聴感上も好ましい結果になる方と考えるからです。 DEQXの行うルーム補正は「それぞれのリスニングルームに発生する固有の定在波」を補正します。 ※ 定在波(standing wave または stationary wave) 音波は一定の速度で進む進行波で、1秒間に約340m進みます。この音波がリスニングルーム内の並行に向かい合った壁などの間で、あたかも波の進行が止まり、振幅が同じ場所で繰り返されているように観測できる現象を定在波と呼んでいます。 室内の平行な壁の間の寸法が、1間、1間半、2間、2間半、3間、の時の定在波の周波数は次のようになります。6畳間の縦方向は2間ですので100Hzの定在波が立つことになります。 間 m 半波長 (Hz) 1波長(Hz) (基準振動モード) 1間 1.7 100 200 1間半 2.55 67 133 2間 3.4 50 100 2間半 4.25 40 80 3間 5.1 33 67 この定在波は音楽を聴く上でかなりの悪さをします。低音が極端に痩せて聞こえたり、または極端に増強され、しかも特定の周波数の音(上の表)が残ってしまったりします。 この定在波を根本的に退治しようとすると並行した壁をなくすとか、低域を吸収する膨大な吸音層(壁)を設けるなど、大がかりな建築上の工夫が必要です。 もちろんこうしたことが可能な場合は一番良い方法ですが、かなりのコストがかかることと、結果は出来上がって、実際に音を出してみないと判らないというのが実体です。 DEQXはこの定在波に対して、スピーカーから出る音響エネルギーを制御してリスナーへの影響を最小限にとどめるルーム補正機能を備えています。 このルーム補正を行うためには、リスニングポジションか、またはリスニングポジションに近い部屋の中央付近に測定用マイクをセットし、調整を終えたスピーカーシステムから測定信号を出して、部屋の特性を測定します。 下のグラフは実際の測定結果と、定在波の補正結果を示したものです。 <ルーム測定と自動補正結果-1(青色の太線が補正イコライザー特性)> <ルーム測定と自動補正結果-2(青色の太線が補正イコライザー特性)> 上のグラフ<結果-1>は周波数範囲を20Hzから200Hzに設定(デフォルト設定)して自動的にルーム補正を掛けた場合の特性を示しています。 <結果-2>は補正する周波数範囲を20Hzから550Hzに拡張した場合の特性を示しています。400Hz付近のやや幅の広いディップにたいしても補正が掛かっていますが、このディップは定在波ではなく、部屋の形状(窪み等の空間)から生じる音響エネルギーの落ち込みだと思われますが、聴感上は明らかにこの帯域の補正効果で音楽の基音がしっかりと出てくるようになりました。 <スピーカー補正でフラット化された特性> このグラフは2WayのスピーカーシステムにDEQXで補正を掛けた後の周波数特性です。測定マイクはスピーカーシステムから1mの位置ですが、このマイク位置における特性(位相と群遅延特性なども)をこのグラフにあるように、まず理想的な状態に補正し、さらに室内の定在波を補正するという二段階方式を採ることで、結果的にルーム内の広い範囲により良いサウンドが届けることが可能となります。 逆に、スピーカーシステム単体の特性は補正せずに、リスニングポジション付近で計測するルーム補正のみでスピーカーを含めた特性をフラットに補正してしまうと、結果として測定ポイントの周辺のみで補正が成り立つことになってしまい、サービスエリアが極めて限定されてしまいます。 また、音に対する様々な反射や複雑な残響、特定の空間などでの共振による非対称なディップなど、室内の音響特性はとても複雑であり、これを含めて一律に補正を掛けることは音を良くすることに必ずしもつながらないと考えています。