< 座り中央が照井氏、左側が三浦氏、そしてオーディオ仲間のお二人 >
< DEQXの動作を最適化するためパワーアンプを変更したシステム >
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■ 感想文-1:照井和彦氏
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・三浦さん、栗原さん、今回で二度目となるDEQXの調整ありがとうございます。
・2017年早春に最初の調整を施して頂き、その結果に驚くとともに、部屋の音響・アコースティック調整も非常に重要なことと知るきっかけになりました。
・このときのDEQX調整でスピーカーと部屋の補正に加え、特に低域を強調した好みのサウンドをプロファイルに設定して頂き、その再生音からはテラークのアナログレコード1812の迫力に大変な衝撃を受け、DEQX効果をまじまじと実感しました。
・ところで、DEQXを設置したこの部屋ですが、日本式家屋の構造で一階部分の6畳と8畳、そして廊下部分と一部キッチンを取りつぶ、合計で17畳ほどが確保出来た空間となっています。
・遮音も吸音(調音)もあまり考慮ぜずに、壁は珪藻土仕上げ、天井はダイケンの音天を指定してオーディオマニアの棟梁に施工してもらいました。
・竣工直後に持ち込んだJBL4331やマッキンMC2600、LNP-2Lなどでしばらくオーディオを楽しんでいましたが、反射音過多は如何ともしがたい状況でした。
・当時の昭和電線工業が開発した静音マテリアルを持ち込んだり、合板に布団を張り付けた自作マテリアルで細々と第一期調整を進めた結果、ある程度の効果が得られました。
・スピーカーシステムは大型化が進み、Wウーファーの4350に挑戦しましたが、途中で路を踏み外し(笑)なぜかDIYになってしまいました。
・栗橋在住のオーディオマニアの方から箱の出物を紹介して頂き、バッフル板の加工と実装に2年近く悪戦苦闘。現在はFostexのFW400HRのWで落ち着きました。
・その間、チャンデバにはアキュフェーズのプロ仕様機(アナログ回路搭載)やDF-55、そして現在のDEQXと続き、前回レポートの調整をお願する事となりました。
・オーディオに滞留は無く、昨年秋口に音響マテリアルを持ち込んでアコーステックの第二期調整に取り組み始めました。
・これも友人知人と共に耳調整を進め今回の様な配置になっています。珪藻土壁の意味合いは無くなってしまいましたが、再生音は確実に向上します。
< 最初にDEQXを導入されたときの室内(2017年4月頃)>
< 第二段階の室内音響対策が完了した段階でDEQXの再調整を実施しました >
・こうして迎えた2018年の夏、DEQX+外付のADCとDACで再度の調整となりました。
・その効果をオーディオ鑑賞の観点からご報告して参ります。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、マリス・ヤンソンス指揮
2003年ライブ録音 ドボルザーク新世界より(SA-CD)
・おなじみの第三楽章(8分ほど)でかすかに聴こえてくるトライアングルが段々クレッシェンドし、おしまいの一音を止めている手の動きが視えるようになりました。
手島葵 The Rose~I Love Cinemas(CD)
・アルバムのタイトル曲を聴きました。このアルバムで3曲弾いているフェビアン・レザ・パネ氏のピアノの余韻が美しい。これまでなぜか粉っぽかったのですが。
石川さゆり 天城越え (アナログ7インチEPレコード)
・演奏中、音が途切れる間(瞬間)にフッと怖さを感じます。
松任谷由実 OLIVE (アナログ12インチLPレコード)
・アナログのテープレコーダーを使った丁寧な音創りが40年を経て甦ります。
・録音されたONKIO HAUS(音響ハウス) STUDIOのサウンドが目の前に展開され、息を飲む思いです。
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・感想は以上ですが調整当日、自分のPCにDEQX用の調整ソフトをインストール。
・栗原さんが調整しているところを横からしっかり研修(見学)して納得。
・今後は自分でも調整にチャレンジしてみます。
・DEQXを調整する → 再生機器をいじる → 空間をいじる → 再びDEQXで調整する。
・この無限ループが音の鮮度を上げて行く一つの手法と感じました。
・今後はこれを実践していこうと考えています。
照井和彦
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■ 感想文-2:オーディオ評論 三浦孝仁氏
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・ユーザーズ・レポートに照井さんのリスニング空間が登場するのは2回目ですね。
・私も少しだけ関わっておりますが、2回目の調整にあたりまして計測結果には顕れないであろう音質の追求をしてみました。
・具体的には、DEQXが内蔵するDAC回路を使わずに、ソウルノート製のステレオDAC「Soul Note D-1」を3台用意して高域〜中域〜低域を単独のDACで再生するという試みです。
・理由のひとつには、DEQXが内蔵するDAC素子とは音質傾向の異なるESSテクノロジー製の電流出力DAC素子「ES9038PRO」の音が個人的に気に入っているということがありました。
・そして、電源部や筐体が独立している単体DACの環境面でのメリットが少なからず音に反映されるのではという期待もあったのです。
・厳密にいいますと3台の単体DACは非同期で動作していることになりますが、DEQXからのデジタル出力はクロックが揃っており、3台の単体DACも同じ製品なので動作的にはまったく問題がないだろうという判断でした。
< 再生機器:奥から3つめのラックに ADC → DEQX → DAC×3台を設置 >
・ちょっと困ったのは、3台ものDACがあるためにオーディオラックの棚を占領してしまったことです。まあ、ラックを増やせばいいのですが...。
・また、3本のデジタルケーブルが必要になったのも面倒なところです。
・加えて述べると、これまではパワーアンプに近接して設置していたDEQXをプリアンプ側に持ってきて単体DACと同じラックに納めたことにより、パワーアンプに伝送する長め(各8メートル)のアナログ・ラインケーブルが必要になってしまいました。
・ケーブルは適当な長さをロールで所有しておりましたが、両端がRCA端子のケーブル8本と、両端がXLR端子のケーブル8本をこしらえるのには苦労しました。
・しかしながら、音に関してはそういったて苦労が大きく報われるような結果となったのではと思っています。
・ESS製DAC素子の特徴である音の鮮烈さと躍動感の豊かさは、この部屋で聴くDEQXの音をより魅力的なレベルに押し上げたのではと自負しているわけです。
・非常に興味深かったのは、単体DACの「Soul Note D-1」が持っている機能で、デジタルPLLの守備範囲を最小にするモードにすると、音の焦点がピシッと締まってきたことです。
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・現時点での私的な不満点は、再生音量についてです。
・録音を手がけた方なら判ると思うのですが、デジタルオーディオではピークの0デシベルに限りなく近づけた録音が求められます。
・アナログ録音でもそうですが、なるべくヘッドマージンの余裕が欲しいわけです。
・このリスニング空間の主である照井さんは、DEQXの入出力を限りなく0デシベルに近づけようと画策しており、私がDEQXを使った場合もまったく同じ事をするでしょう。
・デジタル入力が0デシベルに近くても、内部のDSPで処理したデジタル信号のレベルが絞り込まれてDAC回路に送られるというのは、心情的にもあまり気持ちの良いものではないからです。
・それを考えた結果、単体DACまでは0デシベルに近いレベルでデジタル伝送できるように設定したのですが、DAC側でのアナログ出力電圧は固定なのでパワーアンプの入力ゲインが大きく関わってきます。
・ここで高域と中域に使っている米国ファーストワットのステレオ・パワーアンプはゲインが低い設定なので、結果的にそこそこの音量にまでしか挙げられなくなっています。
・照井さんお一人では不満がないそうですが、2〜3人で聴くと少しもの足りない音量に感じてしまいます。
・ゲインを揃えるために、低域を担当するソニー製パワーアンプの入力にPAD(アッテネーター)をかませていますが、それも問題アリです。
< パワーアンプ:低音 SONY / TA-N1(下)、中・高音 FIRST WATT / F3 >
・その解決策として、照井氏は高域と中域のパワーアンプを標準的なゲインであるアキュフェーズ製に交換することを目論んでいます。
・そうなるとDEQXも再度の調整が必要になってきますが、懸案である音量の問題からは解決されそうなので楽しみです。
・個人的には、左右それぞれ2基のフォステクス製38cm口径ウーファーを駆動するのには、伝統的なアナログ増幅のステレオ・パワーアンプよりも、DEQX社が最近リリースしたHypex製のクラスDモジュール(Nコア)を採用したデジタルアンプ(クラスD増幅アンプ)
※1のほうが相応しいかもと考えていたりしています。
・将来的にそんな実験も含めて、私はこれからも照井さんのリスニングルームにおじゃましようと考えております。
オーディオ評論:三浦 孝仁
※1 クリズラボの製品資料
DEQX社製 High Defiitioi Power Amplifers(PDF)
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■ 再調整と測定結果について:クリズラボ
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・室内の音響特性を改善したのでDEQXの再調整を!との依頼がありました。
・ルームアコースティックにどのような変化があるのか・・・・
・そして、DEQXをより理想的に動作させるための秘策もあるとか・・・・
・DEQXを使いこなす策とは・・・・?
・楽しみ半分、怖さ半分で現場に向かいました。
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・オーディオルームに入ると壁面の変貌ぶりにまずびっくり。
・そして、DEQXを元気にする秘策と伺ったパワーアンプの交換を実施。
・早速スピーカーの測定からスタートしました。
< マルチアンプ方式の場合、最初に各帯域の再生レベルを確認します >
・ウーファーに対してミッドとツィーターの再生レベルが20dBほど低いことが判りました。
・これは、中・高域用のパワーアンプをゲインの低い製品に交換した結果です。
・そしてこれが今回提案されたDEQXの動作を最適化するためのチャレンジと判りました。
・とすれば、目的通りミッドとツィーターの再生レベルが大幅に下がったことになります。
・しかし、このままではDEQXに大幅なゲイン調整が要求されることになります。
・基本的なゲインの調整はシステム側で実施し、微細な調整をDEQXに任せるのが得策です。
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・それではここで今回の例を参考にマルチアンプでの再生レベルについて考えてみます。
・最初にアンプのゲインとユニットの能率を調べて帯域ごとのトータルゲインを求めます。
< マルチアンプ方式の場合、最初に各帯域の再生レベルを計算して確認します >
・今回、中高域用アンプを Ayre V-6xe からFIRST WATTのF3に変更しゲインが13dB下がりました。
・その結果、単純計算では低域に対して中・高域が20dB以上もレベルが低い状態となります。
・パワーアンプにゲインを調整する機能があれば良いのですが・・・・
・ここで照井氏が取り出したのが20dBのPadです。→ → →
<XLRコネクターに減衰器を内蔵したプロ用の製品>
・この20dBの減衰器を低音用アンプの入力に接続した状態が下図です。
< 低音用アンプに20dBのPadを入れた状態で計算した帯域間のレベル差 >
・Padを入れたことでシステムのレベル関係がどのように変化したのか見てみましょう。
< 低域が20dB下がり、中高域とのレベル差が小さくなくなる >
・この状態でスピーカー測定を行った結果が下図です。
< 利用する各帯域の再生レベルが6dB以内となり、大成功! >
・実際の測定結果も計算値と近いものとなりました。
・ちなみに、DEQXでスピーカー補正を行う場合の推奨レベル設定を下図に示します。
< ウーファーを基準に、中・高域をやや高めにセットするのがお勧めです >
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・再生レベルの問題が解決したので改めてスピーカーの測定を行います。
・ます、そのままの状態で測定すると予想通り大きな反射音が観測されました。
・そこで、スピーカーと測定マイクの間の床に厚めの座布団を数枚置いて再測定。
< ↑↑↑ マウスを乗せると吸音材を置いたときの特性が見えます >
・測定した周波数特性から吸音材の有無を比較したのが上の図です。
・変化は判りますが、どちらが良いかは即断できません。
・反射の影響が大きいと思われる中域で比較したのが次の図です。
< 上の図からMid Rangeを抜き出して比較。違いは僅かのようですが・・・・ >
・実は、周波数特性(のグラフ)は反射音の状況といった時間的な変化を見るのが苦手です。
・そこで、周波数特性を時間的な変化に変換したのが下のインパルスレスポンスです。
< ↑↑↑ マウスを乗せると反射音の有無が見えます >
・マウスポインターを乗せると座布団の有無による反射音の状態(違い)がよく判ります。
・座布団を置くと10.5mS付近の反射音(赤丸)が消滅するので床の反射だと判ります。
・座布団作戦は大成功。データー量が2mSも多くなり、より低域まで補正が可能になります。
・スピーカーの測定結果を元にPCが計算で創り出した補正フィルターが下の図です
< ↑↑↑ マウスを乗せると補正後の周波数特性が見えます >
・40Hz〜11kHzまで、周波数、位相、群遅延、ステップレスポンスの4つが改善されます。
・中でも音質に最も影響する周波数特性を平坦化することが高音質再生の要です。
・40Hz以下と11kHz以上の帯域は最後のルーム補正の中で同時に実施します。
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・スピーカー補正が完了すると基本設定(Configure)を行い、ルーム補正に入ります。
・40Hz〜11KHzがフラットに調整されたなスピーカーで測定信号を出し、聴取ポイントに置いたマイクで測定したのが下のグラフです。
< ↑↑↑ マウスを乗せると今回(ルームチューニング後)の特性が見えます >
・前回とルームチューニング実施後の今回の特性を比較出来たのは大きな収穫でした。
・上の図にマウスポインターを置くと今回の特性が見えますので比較して下さい。
・前回見られた500Hz(と250Hz)付近の大きなピークが消滅しているのが判ります。
・また、400Hzから20kHzの高域まで緩やかに下降する素直な特性に変化しています。
・このポイントだけでも室内空間の音響特性が大幅に改善されたことが判ります。
・DEQXの補正量が少ないほど理想的な室内音響特性だと言えますが、今回は確実にその方向に向かっていることが確認できました。
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・DEQX調整の最後はルーム補正です。
・ここでは4つのプロファイル(特定の用途向けの基本設定)を作ることができます。
< Profile-1に設定した聴取ポイントでの周波数特性 >
・クリズラボでは最初に全帯域のフラット化を行い、これをProfile-1に設定します。
< Profile-2に設定した聴取ポイントでの周波数特性 >
・日常の聴取レベルが比較的小さいことを考慮した低域充実タイプをProfile-2にセット。
< Profile-3に設定した聴取ポイントでの周波数特性 >
・チャイコフスキーの「1812年」や、イーグルスのホテル・カリフォルニアが小さな音でも迫力満点で響く重低音充実設定。
・Profile-0はDEQXの補正がない状態をセットして比較して頂いています。
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・全ての設定が完了して調整用音源を聴いていると、DEQXの出力レベルメーターが目一杯振れています。
・アナログ機器には固有の最適動作レベルがあり、これに合わせることが大切です。
・そして全てのデジタル機器はフルビットに近い状態で動作させるのがベストです。
・今回のパワーアンプ交換はまさにこれを実現するための手段でした。素晴らしい!
< 1966年発売の黒沢明とロス・プリモス「ラブユー東京」が照井氏の評価用音源 >
・DEQX調整後、最初に聴くのがこのディスク!です。
・部屋の余分な響きが減った分だけリアルな感じが増し、目の前で歌っているようです。
・そしてDEQXも目一杯頑張っている感じが伝わってきます。
・照井氏、三浦氏、ご友人の方々、そして私。全員がうなずいてこの日の調整を終えました。
クリズラボ:栗原信義
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